Bye, My Love




 だんだんと遠くなっていく意識の中で、俺は遺していくことになる者たちの事を思う。



 ジェレミア・ゴットバルト。
 母さんを敬愛していたという。真実を知った今では、俺にとってあの人は人間としても母親としても失格だが、それでも騎士としてのあの人のことは認めることはできる。そう、あの人はどこまでも父シャルルの騎士だったのだ。皇妃となった後も尚。
 俺は最初、スザクを助け出すためにジェレミアにギアスをかけ、汚名を着せた。挙句、彼は人体改造までされてしまった。だが俺の目的を知ったジェレミアは、そんな俺に対して文句一つ言うでもなく、逆に忠誠を誓ってくれた。俺に従うと。
 そして現に今も、これからは“悪逆皇帝の騎士”と罵られることになるだろうに、それでも尚、最後まで付き合うと、俺の側にいてくれる。
 彼にはいくら感謝してもし足りない。この先は、俺のことなど忘れて自分の幸せを考えてくれることを願う。

 篠崎咲世子。
 ブリタニアに侵略された日本人、すなわちイレブンでありながら、俺たち兄妹に心から尽くしてくれた。そして俺がゼロと知ってからは、ジェレミアと同様に俺に忠誠を誓い、仕えてくれている。ジェレミアとは異なり、彼女には命令で俺を裏切らせることにしたが、それでもいくらかの批難が彼女に向けられる可能性はある。だがそれでもいいと咲世子は言ってくれた。どこまでも俺に仕える、従うと。そんな彼女にも感謝を。

 キャメロットのロイドとセシル、そして、ニーナ。
 俺が皇帝となってから俺に仕えてくれた者たち。彼らがいなかったらダモクレスの攻略は不可能だっただろう。
 特にニーナ。
 ユーフェミアのことで俺を恨んでいるだろうに、それ以上に己の創り出した兵器、フレイヤの生み出した惨状を見て俺に協力してくれた。
 大量破壊兵器フレイヤの生みの親として、犠牲になった人々、その遺族や関係者に恨まれることだろう。しかし逆にそれを無効にするためのものを生み出したのも彼女だ。だから彼女に対して向けられる視線や言葉が、彼女を責めるものばかりでないことを祈る。

 ミレイ、リヴァル、シャーリー。
 俺の学園生活の中における大切な仲間たち。
 全てを知っていたミレイ。知らなかったリヴァルとシャーリー。けれど俺との関係のために、父シャルルの記憶改竄というギアスの犠牲になってしまった。
 ミレイは彼女の元々の性格もあったのかもしれないが、俺たち兄妹が少しでも楽しい学園生活を送ることができるようにと、色々とイベントを企画し、楽しませてくれた。もっとも、そのおかげでいい迷惑もかけられたが。だが彼女のおかげで楽しい日々を送れたのは間違いのない事実だ。
 リヴァルは俺の真実は何も知らなかったが、それでも彼は俺にとっては一番の悪友。ルルーシュ・ランペルージとしてあった俺の一番の理解者だったのではないだろうかと、今になって改めてそう思う。
 シャーリー。彼女の父親を死なせてしまった責任の一端は確かに俺にもある。彼女が俺を恨み、殺そうとまで思いつめたのは致し方のないことだ。それを責める気はない。俺が憎むのはそんな彼女を利用した者たち。だから俺は彼女にギアスをかけて俺のことを忘れさせた。それが他人ごっこ。もっとも、それは父シャルルのかけた記憶改竄のギアスで関係のないものとなったが。
 ジェレミアが人体改造を受け、その中で得たギアス・キャンセラーの力で記憶改竄のギアスも解け、全てを思い出し、そして殺された。最期まで俺のことを好きだと、生まれ変わっても好きになると、そう言いながら俺の腕の中で死んでいった。そこまで俺を想ってくれた存在を、俺は他に知らない。彼女の俺に対する想いと、俺の彼女に対する想いは、必ずしも同じものとは言えなかったと思う。しかし彼女に対して好意を持っていたのは確かだ。だから今度生まれ変わったら、俺なんかには出会わずに、必ず彼女だけを想い、彼女を幸せにしてくれる奴を見つけて幸せになってくれることを祈る。

 ナナリー。
 彼女の俺を呼ぶ、泣き叫ぶ声が遠くに聞こえる。
 母を同じくする俺のたった一人の実妹。俺にとってはその存在が全てだった。ナナリーがいたから俺は生きてこれたと思っている。ことに母が殺され、共に日本に送られてからは。
 しかしナナリーは何も知らなかった。理解していなかった。いや、理解しようともしなかった、が正しいのかもしれない。何故俺たちがあれほどに素性を隠してアッシュフォードに匿ってもらっていたのかも、俺がどこまでブリタニアを、父シャルルを憎んでいたのかも何も。だから平然と皇族に復帰し、エリア11となった日本に総督として赴任してくることを望むことができたのだろう。多少は俺のことがあったとしても。
 そして俺がナナリーに対して思っていた程には、彼女は俺のことを思ってはいなかったのだと、後のダモクレスとの戦いの時に思い知らされた。彼女にとっては自分を愛し守ってくれる者なら、それは必ずしも俺でなくてもよかったのだと。
 そしてナナリーは何をした? 現実を知ろうとせず、総督としてなら自分の望みは何でも果たせると簡単に思い込んで、何も深く考えることなく、ユーフェミアの提唱した“行政特区日本”をそのままに再建しようとした。果ては第2次トウキョウ決戦でフレイヤが使用された際、それが彼女の意思に基づくものからではなかったとしても、死を偽装して身を隠し、エリアの責任者たる総督として為すべきことを何一つしなかった。そればかりか自国の帝都にフレイヤを落とすことを承認し、億に上らんとする被害者を出した。トウキョウ租界を合わせればその被害者の数は如何程になっただろう。人的被害はもちろんだが、経済的損失もどれ程のものだったか。それらを彼女は少しでも考えたことはあるのだろうか。おそらく一度もないだろう。為さねばならぬ事をしなかったことも、してはならぬことをしたことも、きっと彼女は理解していない。これから先、そのことを知ることがあった時、彼女はどうするのだろう。どうなるのだろう。それだけが唯一の気がかりだ。

 ロロ。
 記憶を改竄されている間に与えられていた偽りの俺の弟。記憶が戻った後、俺は彼を憎み、そして利用して何時か殺してやろうと考えた。実際、ナナリーが死んだと思い込んだ時、俺は酷い言葉を投げつけた。なのにロロはそんな俺を、自分の命を懸けて助けてくれた。俺の制止の言葉を聞かず、自分の心臓に負担のかかるギアスを使い続けて。
「兄さんは嘘つきだから」と、ずっと一緒にいながら気付きもしなかったナナリーと違って、たった一年ほどしか共にいなかったのに、俺のことを理解し、慕ってくれた。
 自分の全てを懸けて助けた兄がこんなにも早く、しかもこんな方法で逝くことを、きっと彼は悲しむだろう。一体何のために自分が俺を助けたと思っているのかと。だが、俺にはもうこれしか方法が思いつかなかった。だから責めるロロに対してはひたすら謝ることしかできない。もっともそれ以前に、俺がロロのいるところと同じところにいけるかどうか分からないが。
 血の繋がらない偽りの弟だったロロ。けれど今ははっきり言える、俺の弟はロロだけだと。たとえ血の繋がりはなくとも、おまえだけが俺の家族だと。

 C.C.。
 俺にギアスを与えた俺の唯一の共犯者。
 おまえとの約束を果たすことができなくて済まない。それだけが俺の唯一と、一番といっていい後悔だ。
 おまえはどうか知らないが、俺はおまえを愛していたよ。これは嘘じゃない。俺は確かに多くの嘘をついてきたが、これだけは本当だ。おまえがそれを信じるかどうかは分からないが。
 この先のおまえにとっての永い時間(とき)、少しでもおまえが幸福を感じることができることがあることを願ってやまない。



 俺は逝く。
 これから先、俺の大切な友人たち、そして俺に協力してくれた者たちが、これから先の未来、少しでも幸福に生きてくれることだけが俺の最後の願いだ。
 彼らに少しでも良い明日が訪れることを、切に願ってやまない。

── The End




【INDEX】